刺し子について質問をいただいていると、
「これはどちらが正解ですか?」
「この向きで合っていますか?」
「この糸で刺してもいいですか?」
と聞かれることがよくあります。
そのたびに私は、
「どちらでも大丈夫ですよ」
「実際に刺してみて、きれいだと思うほうでいいですよ」
と答えることがあります。
刺し子には、必ずしもひとつの正解があるわけではないからです。
でも最近、ここにはもう少し言葉が必要なのかもしれない、と思うようになりました。
「正解はひとつではない」ことと、
「何でもいい」ことは、たぶん違う。
「正解がない」には、いろいろある
例えば、こんな質問をいただくことがあります。
「この模様は、細い糸と太い糸、どちらで刺したほうがいいですか?」
これは、どちらか一方が正解というものではありません。
細い糸なら、模様の線がすっきり見える。
太い糸なら、糸の存在感が強くなる。
さらに、同じ糸でも模様の縮尺が変われば、見え方は変わります。
だから、
「太い糸と細い糸、どちらが正しいか」
ではなく、
「私はこの模様を、どう見せたいのか」
で選んでいい。
実際に刺して、少し離れて見てみる。
模様がきれいに見えるか。
糸の存在感が強すぎないか。
この縮尺と糸の太さは合っているか。
そうやって、自分の目で確かめていくことができます。
一方で、こんな質問ならどうでしょう。
「刺し子ふきんを作るとき、糸始末が面倒なので玉留めでもいいですか?」
この場合、私は単純に、
「刺し子に正解はないので、好きな方法で大丈夫ですよ」
とは答えません。
なぜ、ふきんではこの糸始末が基本とされているのか。
玉留めにすると、使ったときにどうなるのか。
まず、その理由を知ってほしいと思います。
もちろん、玉留めそのものが「間違い」というわけではありません。
私自身、作るものによっては玉留めを使うこともあります。
大切なのは、
知らないからそうすることと、
理由を知ったうえで「今回はこの方法にする」と選ぶことは、同じではないということ。
私が思う「正解はひとつではない」は、
「何をしても同じ」という意味ではないのです。
基本は「正解を覚えるため」にあるのだろうか
では、基本をきちんと覚えて、その通りに刺せばいいのか。
私は、それもちょっと違うと思っています。
基本をひとつ習う。
その見本が刺せるようになる。
次の柄を習う。
またひとつ、刺せるものが増える。
もちろん、それも大切な学びです。
けれど、見本にないものを刺したくなったときはどうでしょう。
糸の太さを変えたい。
縮尺を変えたい。
自分の作品に合わせて、少し構成を変えたい。
そんなときに、
「先生の見本はどうだったっけ?」
ではなく、
「私はどうしたい?」
と考えられることも、大切なのではないかと思っています。
基本は、正解をたくさん覚えるためだけのものではなく、
自分で判断するための土台。
基本を知っているからこそ、その先で自分で選べる。
そんなふうに捉えると、基本を学ぶ意味も少し違って見えてきます。
だから私は「見る」ことから始める
私の講座では、刺すことより先に「見る」ことを大切にしています。
一般的には、まず基本を知り、実際に刺し、経験を重ねながら少しずつ応用していく、という学び方が多いと思います。
もちろん、その学び方にも意味があります。
私の講座で少し違うのは、その「見る」を学びの最初に置いていることです。

模様の中心はどこにあるのか。
線はどうつながっているのか。
どこに均衡が生まれているのか。
縮尺が変わると、模様の印象はどう変わるのか。
まず、見る。
そして、
「なぜ、こうなっているんだろう?」
と考える。
そのあとに基本を知ると、
「そういう決まりだから」
ではなく、
「ああ、だからこうするのか」
と理解できることがあります。
見ることから始めると、
基本がただの「ルール」ではなく、
理由のあるものとして入ってくる。
私はここを、とても大切にしています。
「わかる」と「できる」は、また別の話
ただし、見ることができれば、すぐにきれいに刺せるわけではありません。
ここは講座でも、よくお伝えするところです。
「どうなっているか」は目で理解できた。
「ここをこうすれば、もっとバランスがよくなる」ということもわかった。
でも、それを実際に針と糸で表現しようとすると、思ったようにいかない。
これは当然のことです。
手で表現できるようになるためには、どうしても手数が必要です。
何度も刺して、見る。
また刺して、確かめる。
そうして少しずつ、
「ここはもう少しこうしたほうがいい」
「この縮尺なら、このくらいが刺しやすい」
「この糸なら、こちらのほうがきれいに見える」
と、自分で判断できるようになっていく。
だから私の講座も、「見れば刺せるようになる」というものではありません。
むしろ、
見ることで基本の意味を理解し、
そのうえで手を動かして身につけていく。
その両方が必要なのだと思っています。
正解を渡すのではなく、判断するための軸を
刺し子には、ひとつの正解しかないわけではありません。
布も違う。
糸も違う。
模様の大きさも違う。
そして、作る人が美しいと思うものも違います。
だから、最後には自分で選んでいい。
でも、
「正解はないから、何でもいい」ではない。
まず基本を知る。
なぜそうするのかを考える。
実際に手を動かす。
そして、自分の目で確かめる。
その土台があるからこそ、そこから外すことも、自分なりに変えることもできるのだと思います。
私が講座で渡したいのは、たくさんの「正解」ではなく、
自分で見て、考えて、選ぶための軸。
見本通りに刺せるものを、ひとつずつ増やしていくことだけではなく、
いつか見本がなくても、
「私はこう刺したい」
と、自分の答えを見つけられるようになる。
正解をひとつに決めないことと、基本を大切にすることは、矛盾しない。
むしろ、
基本を知っているからこそ、自由に選べる。
そんなところまで含めて、私は刺し子を伝えていきたいと思っています。
- 私の講座であなたがどんなふうに変わるのか 刺し子を好きになった、その先へ
正解を覚えるだけでなく、観察する力や自分の感覚を育てるという、講座の考え方について。 - 講座が終わっても、また刺したくなる
自分の目で見て、考えて、試すこと。実際の講座での気づきと、その後の学びについて。 - シチュエ-ション別糸始末の体系とその方法
布の仕立てや模様に合わせて糸始末を選ぶために。本文の「理由を知ったうえで選ぶ」を具体的に深める記事です。 - 刺し子の図案は、中心を決めると整いはじめる
模様の中心・配置・縮尺を、自分で考えるためのヒント。


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