先日、日本橋三越カルチャーサロンで刺し子の講座をしたとき、私は「中心から考える」という話をしました。
刺し子の図案を見るとき、一本一本の線を追いかけるのではなく、まず中心がどこにあるのかを見る。
中心が決まると、そこから上下左右へと模様が展開していき、全体の構造が見えてきます。
これは今回の講座でお伝えしたかったことのひとつであり、私自身が図案を考えるときにも、とても大切にしていることです。
※その時のお話しはこちら


講座では刺し子の話としてお伝えしていたのですが、最近、自分の作品を見ながらふと思いました。
私はそもそも、「中心から広がっていく形」が好きなのかもしれない。
ポーチを見て気づいたこと
先日、刺し子のポーチを投稿しました。
このポーチの模様も、まず中心を決め、そこから左右上下へ展開するように配置しています。
つまり、刺し子の部分はシンメトリーです。
ところが、完成したポーチを見ると、タッセルは片側にしか付いていません。
こちらはアシンメトリー。
シンメトリーに模様を配置しておきながら、最後にひとつ、左右のバランスを崩すものを置いている。

制作しているときにはそこまで意識していなかったのですが、改めて眺めてみると、
「ああ、私はこういうものが好きなんだ」
と気づきました。
平等院鳳凰堂と法隆寺
シンメトリーとアシンメトリーについて考えていて、思い浮かんだ日本建築があります。

平等院鳳凰堂と、法隆寺です。
平等院鳳凰堂は、中堂を中心として左右に翼廊が延びる、とても明快なシンメトリーの建築です。文化庁の解説でも、その姿は「左右対称」と説明されています。
正面から見たときの、中心から左右へ広がっていく姿。
私はこの美しさにとても惹かれます。
一方、法隆寺の西院伽藍は違います。
回廊の中に、金堂と五重塔という異なる建築物が左右に並んでいます。
こちらは左右対称ではありません。文化庁も、西院伽藍について「中枢部を左右非対称とする構成」と説明しています。 世界遺産 文化遺産オンラインより抜粋
さらに面白いのは、法隆寺の回廊です。
法隆寺の公式解説によると、回廊は西側より東側のほうが一間長く、その理由は金堂と五重塔のバランスを考慮したものと考えられているそうです。
左右が同じではない。
それでも、全体として見ると不思議なくらい美しく収まっている。
私はここに、とても惹かれます。
正反対なのに、どちらも好き
平等院鳳凰堂のシンメトリー。
法隆寺西院伽藍のアシンメトリー。
一見すると、正反対の美しさです。
でも私は、どちらも好きです。
なぜなんだろう、と考えました。
そして自分の刺し子に戻ってみると、少し分かるような気がしました。
私は「すべてが左右対称であること」だけを美しいと思っているわけでも、「左右非対称であること」そのものに惹かれているわけでもない。
中心や構造を感じられること。
そして、その中に少しだけ予想を外れるものがあること。
そこに惹かれているのかもしれません。
ポーチの刺し子は、中心から上下左右へ展開するシンメトリー。
でも最後に、タッセルを片側だけに置く。
整然とした模様の中に、ほんの少しだけ違う動きが入ります。
それは制作するときに理屈として考えていたわけではありません。
ただ、自分が「これが美しい」と思う方を選んでいったら、そうなっていました。
「中心から考える」ということ
そう考えると、三越の講座でお伝えした「中心から考える」という話も、単に刺し子の図案を読み解くための技術だけではなかったのかもしれません。
中心を見る。
そこから全体の構造を見る。
そして、その構造の中で何を揃え、何をずらすのかを考える。
私はずっと、そんなふうに刺し子を見てきたのだと思います。
講座で人に説明するために言葉にしたことが、巡り巡って、自分自身が何を美しいと思っているのかを知るきっかけになりました。
平等院鳳凰堂を見ても、法隆寺を見ても、そして自分が作った小さなポーチを見ても。
私が見ているものは、案外同じなのかもしれません。
中心があり、構造があり、そこから生まれるシンメトリーとアシンメトリー。
これから作品をつくるとき、自分がどこを揃え、どこをずらそうとするのか。
少し意識して見てみたいと思っています。


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